モーツァルトの音楽はなぜ不眠症の改善に良いのか  
 
 
現代社会では、働き過ぎや不快なストレスが原因で、「よく眠られない」とか「眠りが浅い」という人が年々増えており、大きな社会問題になっています。人間にとって、起きている覚醒状態と眠っている睡眠状態を交互に規則正しく経験することが、健康を維持する上でたいへん重要だからです。特に、昼間など活動しているときに作用する交感神経と、休んでいるときに作用する副交感神経の2つが、規則正しく活動することが自律神経のリズムを保つ上で大切になります。

 さて、人間にとっての睡眠は、身体の疲労をとるレム睡眠と脳をほぐすノンレム睡眠から成り立っています。就寝中、この2つの睡眠はおよそ90分ごとに起こるのが一般的です。もしレム睡眠が不十分であったり障害があると、翌日は全身がだるいとかやる気が起こらないなど疲労が残ります。また、ノンレム睡眠に障害があれば、頭がボーとして集中力が欠けるなどの問題が起こります。したがって、レム睡眠とノンレム睡眠を規則正しく経験することが、日々の生活に支障を来さない上で重要であり、加えて生体活動を正常に保つためには、1日6〜8時間の睡眠が必要とされています。

 通常、脳内の電気的活動を脳波と称しますが、睡眠中の脳波はうとうとした状態のときに出るシータ波と深い眠りの状態のときに出るデルタ波が有名です。これらは、はっきり目覚めたときに出るベータ波やリラックスしたときに出るアルファ波とは明らかに異なっています。アルファ波は、目を閉じて一息いれることでも発生するので、交感神経優位な方は、目を閉じて休息することも意味があるといえます。

 現代人は、感情的あるいは肉体的な緊張状態をいつも感じているため、ストレスが継続状態にあります。とりわけ、嫌な人間関係や騒音、過密な状況、精神的な不安や不満などが要因になって、自律神経のバランスを崩しています。聴覚や視覚、味覚などの五感から入ってくるストレスは大脳に悪影響して、結果的に視床下部にある自律神経に影響します。そのために交感神経が活発化して、顆粒球という白血球が出す活性酸素を増大させて身体の粘膜面の障害を引き起こしたり、ストレスホルモンも増加させて免疫力の低下を引き起こすとともに、食欲不振や睡眠障害をもたらすのです。こうして、興奮状態が続けば、不眠症にもなってくるのです。

 良い睡眠をとるためには、ストレスを軽減し睡眠を導く規則正しい生活習慣を取り戻すことが肝要ですが、なかなかそれも困難な状況にあります。モーツァルトの音楽には、周波数分析を行うと、およそ3500ヘルツ以上の高い音が小川のせせらぎのようなゆらぎという音の特性とともに、バランスよく含まれています。さらに、音同士の衝突によって、より高い音を生み出す倍音効果も見られます。

 こうした音楽の特性が、交感神経の優位な状態にブレーキをかけ、副交感神経の活動を引き起こしてくるのです。純粋で透明感に満ちたモーツァルトの音楽を聴くと、心拍や血圧が安定し、唾液もたくさん分泌されてきます。このように、副交感神経にスイッチを入れるために、脳内の興奮が静まり、リラックスしてきます。一般的に、モーツァルトの音楽のように、一定のフレーズの繰り返しが多い曲の場合、脳内をリラックスさせるセロトニンの分泌が促進されます。この物質はやがてメラトニンという睡眠物質に転換されますので、結果として、基礎代謝が低下してよく寝られるようになるのです。これらの物質が脳内で生成され、安らぎが導かれれば、身体と脳のリラックスモードが同時に得られ、眠りの状態がもたらされます。モーツァルトの音楽によって、副交感神経が作用してくると、その神経の末端からアセチルコリンが分泌されるため、内臓も休息状態になり、快眠が得られるのです。


主な参考文献
1)アルフレッド・トマティス:『モーツァルトを科学する』(日本実業出版社)
2)井上昌次郎:『ヒトはなぜ眠るか』(筑摩書房)
3)キャンベル」・ドン:『モーツァルトで癒す』(日本文芸社)
4)関谷透:『うつ病』(主婦の友社)
5)ウイリアム・C・デメント:『ヒトはなぜ人生の三分の一も眠るか』(講談社)
6)和合治久:『健康モーツァルト療法』(春秋社)
7)和合治久:『モーツァルトで免疫力を高める老化を防止する快眠へといざなう』(角川SSコミュニケーション)

 
  > 閉じる <