なぜモーツァルトの音楽は脳神経系疾患の改善に良いのか  
 
 
脳と神経系は人間の生活に不可欠な器官であり、身体の生命活動と精神活動を司っています。脳は通常、上から順に、大脳、間脳、中脳、延髄に分けられ、大脳後部の下にはさらに小脳があります。また、間脳は中脳、橋、延髄とともに、脳幹とも呼ばれています。これらの脳のそれぞれは、異なる機能を果たしており、例えば、大脳は各種の感覚を引き起こしたり複雑な精神活動や情動の中枢になっています。また間脳は、嗅覚以外の各種の感覚の中継部位になっており、自律神経の中枢となる視床下部がここにあります。中脳は、眼球の動きや瞳孔の拡大に関与したり、小脳は筋肉運動を調節しています。一方、延髄は呼吸運動や血液循環の調節を行ったり、消化液の分泌にも関係しています。

 また、呼吸や血液循環のように、意志とは無関係に作用するのが自律神経です。この自律神経は、活動的な交感神経とリラックスを導く副交感神経の2つから成り立っています。交感神経は胸椎と腰椎から出ていますが、副交感神経は中脳と延髄、および仙髄から出ていて、相互に機能を調節しているのです。

 今日、脳神経系の機能異常によって、アルツハイマー型認知症や老人性認知症、あるいはパーキンソン病のような病気が多く発生しています。また、自律神経のバランスを崩してその失調症になり、心身症にもなる方が増加しています。一方、難聴や耳鳴りなどの聴覚器官のレベルでの病気も増えています。これらの病気は、今後、高齢化社会において、ますます増加すると言われているので、予防の観点でどうしても解決しなければならない問題です。

 アルツハイマー型の認知症は、一般的な老人性の認知症と異なり、重い知能障害や不安、精神障害を起こします。そして、記憶に関係する海馬という部位から大脳新皮質にかけて、βアミロイドという物質が生じて、神経死をもたらして記憶が喪失されてきます。一方、パーキンソン病は、中脳の黒質という部位から出る神経繊維が変性して、そこから分泌されるドーパミンが減少することに原因があります。どちらも、アセチルコリンの不足あるいはバランスの崩れが大きく影響していると考えられています。特に、これらの疾患は、不快なストレスの持続によって、自律神経の一つである交感神経が優位になるために、ここからアドレナリン(脳内はノルアドレナリン)が過剰に分泌されるために生じるといわれています。

 さて、音楽にはメロディやリズム、あるいは音色とか音の周波数、ゆらぎ、倍音といった特性がありますが、モーツァルトの音楽には、音の周波数が高いことやゆらぎが豊富なこと、そしておよそ12000ヘルツ以上もの倍音がバランスよく組み込まれています。これらの音楽は、耳から入力されると、内耳のうずまき管にあるコルチ器の有毛細胞を効果的に刺激して脳にエネルギーをより多く送ります。この理由は、高周波音に感じる有毛細胞の数が低周波音に感じる細胞の数より200倍以上も多いためです。そして、副交感神経にスイッチが入り、耳の血液やリンパの循環が良くなって、耳鳴りや聴力の改善に役立つと考えられています。さらに、高周波音とゆらぎに富むモーツアルトの音楽は、視床下部から延髄にかけての部位に作用して副交感神経が作用してきます。その結果、アセチルコリンが分泌されて、交感神経優位で生じる脳神経疾患にブレーキをかけるのです。 実際に、モーツァルトの音楽療法で、アルツハイマー型認知症が改善されることが、1998年に発表されているのです。この実例では、音楽療法で、患者さんの立体認知能力が向上することが報告されました。さらに、多くの耳鳴りや難聴の方が改善されたり、脳性マヒの患者さんも好転しているのです。


主な参考文献
1)Rauscher,F.H. et al.: Listening to Mozart enhances spatial-temporal reasoning,
Neurosci.Letter, 185: 44,1995.
2)篠原佳年・松澤正博:『モーツァルト療法』(マガジンハウス)
3)Johnson,K. et al.: Enhancement of spatial-temporal reasoning after a Mozart listening condition in Alzheimer's disease : A case study, Neuro.Res.20: 656,1998.
4)Jenkin,J.S.et al.: The Mozart Effect, J.R.Soc.Medicine,94: 170, 2001.
5)和合治久:『アマデウスの魔音の癒し−耳鳴り難聴が治った』(マキノ出版)
6)山元大輔:『図解雑学 記憶力』(ナツメ社)
7)Wago,H. and Kasahara,S.: A future alternative intervention against diseases,
Frontiers in biomedicine, Kluger, New York, USA, 2004


 
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