モーツァルトの音楽はなぜ耳鳴り難聴の予防に良い作用を及ぼすのか  
 
 
最近、「耳の中で道路工事をしている」とか「頭の中でセミが鳴いている」というような耳鳴りを経験した方が増加しています。こうした騒音が絶え間なく頭に響き渡る耳鳴りは、日々の生活や仕事にも支障をきたすことにもなります。耳鳴りの悩みは、周囲の方々にはなかなか理解してもらえませんので、苦しみはよりいっそう大きくなります。一方、耳鳴りと難聴は同時に起きることも多く、「聞きたい音は聞こえずに、神経を逆なでするような音だけが頭の中をかけめぐる」と嘆く声も少なくありません。さらに最近は、原因不明の耳鳴りや難聴に悩む人も増えています。この原因を探ってみますと、現代社会の過剰な精神的ストレスや働き過ぎが引き金になっていると考えられます。つまり、不安や悲しみ、あるいは複雑な人間関係などがストレスになり、体内の生体機能を低下させて、さまざまな病気を発症させる原因になっているのです。特に、人間の複雑な聴覚という感覚器官に故障が起きると、耳鳴りや難聴、めまいなどの症状が現れてくるのです。

 人間の耳から脳へと続く聴覚のシステムは、たいへん繊細にできています。不快な音を聞くと、体は大きなストレスを感じますが、一方で心地よい音や音楽には敏感に反応して、体全体に良い影響を与えることが科学的にわかってきました。つまり、心地よい音楽を聴くと、体内は活性化して、意志とは無関係に体の機能を調節する自律神経のバランスが整ってくるのです。加えて、耳鳴りや難聴を引き起こす耳の内耳のリンパ液の環境にもプラスの作用を及ぼすことがわかってきました。外部から送り込まれる音波としての信号をキャッチする耳は、音楽のもつ効果が強く現れます。特にモーツァルトの音楽の特性は、自律神経のバランスを整えますので、耳の内耳に存在するリンパの緊張を和らげる結果、耳の環境が整えられると考えられています。

 耳鳴りや難聴など耳の障害に限らず、いわゆる「不定愁訴」という「なんとなくだるい」とか「やる気が起きない」「眠れない」などの不調を訴える人が近年増加しています。都会で生活する現代社会人は、自律神経の中でも、活動モードを引き起こす交感神経を過剰に働かせているために、二つの不都合なことが生じてしまいます。そのひとつは、交感神経の末端から分泌される多くのアドレナリンの作用で、血管が収縮して血行が悪くなると同時に、血圧が上昇することです。これに関連して、体内のリンパの流れも悪くなるので、むくみなどの原因になります。さらに、アドレナリンに反応して活性酸素を生み出す白血球が増えるために動脈硬化や胃潰瘍などを引き起こす場合もあります。したがって、交感神経優位な状況から抜け出し、自律神経のバランスを整えることが重要になります。

 ここで登場するのが、モーツァルトが作曲した多くの名曲です。モーツァルトの音楽を聴くことによって、心身をリラックスに導く副交感神経にスイッチが入るために、交感神経の過剰な働きにブレーキがかかるのです。医学的になりますが、耳鳴りや難聴は、耳の病気である場合と神経や脳の病気、あるいは薬物中毒やストレス過剰などが原因になるといわれています。この中で、患者さんの数が多いのは、耳の病気による場合で、特に内耳性の耳鳴りは全体のおよそ85%以上も占めています。メニエール病とか突発性難聴という病気は内耳にトラブルが発生すると生じるといわれています。しかし、最近増えているのが、ストレスが原因の耳鳴り難聴です。心身にかかる過剰なストレスは、臓器や器官の働きを自然に調節する自律神経の働きを狂わせ、内耳に存在するリンパの緊張を引き起こしているのです。こうした耳の不調を改善させるために、効果的なモーツァルトの音楽を聴き、ストレスを解消してください。

 実際に、モーツァルトの音楽を聴くことによって、薬では治らなかったブーブー響くような耳鳴りが改善したり、外出にも困難をきたす重度の難聴が解消した、というような体験談が多くよせられています。和音が豊富なモーツァルトの音楽には、およそ4000ヘルツ以上の高周波音が、風のそよぎや川のせせらぎのような揺らぎ音とともに、バランス良く組み込まれています。このような音の特性は、心の不安を取り除き、心身をリラックスに導く副交感神経に作用するために、心身の疲労やストレスも解消してくるのです。また、モーツァルトの音楽は血圧や心拍も安定させるので、血液やリンパの流れも円滑になり、内耳周辺の血行も回復して、耳の障害が改善されたものと考えられます。

 騒音が絶え間なく頭に響きわたる耳鳴りの症状は、日常生活に支障をきたし、精神的な不安を増大させます。また難聴は、対人関係を低下させたり、社会との積極的な関わりを抑制します。そうした方々にとって、モーツァルトの音楽は心強い味方になってくれるものと思われます。聴覚を鍛えて、自然の中の優しい音を聞きとり、コミュニケーションを円滑にすることによって、人間関係の煩わしさから抜け出して、日々の仕事の能率や集中力を向上させてほしいと思います。


主な参考文献
篠原佳年・松澤正博共著:『モーツァルト療法』(マガジンハウス)
河野友信著:『専門医がやさしく教える心のストレス病』(PHP研究所)
二木隆監修:『耳鳴り・めまいがたちまち消える本』(マキノ出版)
坂田英治著:『耳鳴りを治す本』(マキノ出版)
神尾友和監修:『難聴・めまい・耳鳴りを解消する』(講談社)
水野正浩監修:『徹底図解 めまい・耳鳴り』(法研)
和合治久著:『アマデウスの魔音の癒し 聴いて治す耳鳴り難聴』(マキノ出版)

 
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